ちば高齢協 平成22年12月13日 第32号
編集発行 
千葉県高齢者福祉施設協会

平成22年度給食研修会
日時:平成22年10月4日(月)会場:オークラ千葉ホテル

テーマ『安全でおいしい食事の提案』
        講義1「高齢者の食について」
      講師:医療法人社団 誠馨会 総泉病院 名誉委員長 高野喜久雄氏


高齢者にとって食べるということは、自分が生きていることを実感することであり、健康維持の為はもちろんのこと、 生活の中での楽しみであり、身体だけでなく、心の健康にもつながっている。
よって、食べられないことは、その逆であり、知らず知らずのうちに低栄養へつながっていってしまう。
食事を摂れない要因は6つあり、@脳の障害 A口腔内の問題 B嚥下障害 C身体の疾患・状態D排泄の不調(便秘)  E食事の環境 が挙げられる。
それらにより、免疫力も低下していき、誤嚥を引き起こした際には、肺炎に繋がる場合もあるとされている。

そして、この誤嚥と肺炎の原因となりえる“キザミ食”を現在、多くの高齢者施設で、噛まなくても詰まることなく 安全に食べられるとして提供されている実情がある。
さらに、キザミ食は見た目が悪い・食欲がわかない・おいしさに欠けるという点でも多くの課題がある。
この点もふまえ、食事介助の際には、“目の高さ”を合わせて介助を行なう(そうしないと必然的に上を向くことになり、 深呼吸をしやすくなるすなわち空気が入りやすい状態になる)・キザミ食が怖いということを認識する(知って対応する)・食事中、 水分を規則的に提供するなど様々な対応が重要とされる。
また、口腔ケアの必要性や胃瘻の是非等も加わり、「高齢者と食」とは、 いろいろな面から考えていかなければならないということを再認識する講義でした。


事例発表「“美味”“安全”な食事作り〜新しい食形態の取り組み〜」

事例1「ゼリー食」
      発表者:介護老人保健施設 ケアホーム白井
      管理栄養士 虎谷淳子氏、調理師 加藤美保子氏、調理師 高塚忍氏


これまでのミキサー食(口腔内でベタつく・味が混ざりおいしくない・見た目から食欲がわかない等)をなんとかしたい! という思いから全てが始まっていました。
パッククッキングやソフティア(ゲル化剤)の講習会、ワタミの介護施設の見学を経て、 厨房職員へ説明や試食等を行ない、調理師の理解やその他の方の思いを統一し、 取り組まれています。
実際の調理方法や感想などを、調理師さんより話がありました。
1品から試み、食材により焼くのか蒸すのか、食材の重量に対してどれくらい水分を入れるのか、 ゲル化剤を何%の割合で入れるか等々、今ではレパートリーが増えたものの現在に至るまでには大変な状況が感じとれました。


しかし、それを導入した反応として、何の料理を食べているのかがわかる・飲み込みやすい・形があるので 食べた感じがする等意見が挙がり、さらには、食べやすいメニューの作品展で大賞を受賞するまでになっていました。
しかし、時間的な面や人材も限られている中で、ゼリー食をさらに向上させる、ゼリー食以外の食形態の向上 (キザミ食をなくしたい)等、今後も課題があるとも言っていました。
又、会場横のフロアにも色とりどりの写真でゼリー食が紹介されており、とてもわかりやすく参考になりました。


事例2「ソフト食」
      発表者:介護老人保健施設 ロータスケアセンター
      管理栄養士 大橋明子氏


いろいろな研修でソフト食を知る機会やキザミ食の誤嚥のリスク等の講義を受ける中、 自分の施設の食事提供に疑問を持ったことが取り組みのきっかけということでした。
こちらの方法は、完全調理済食品のソフト食を導入し、野菜の切り方や調理の工夫を行なうことで食事形態の展開を変更していました。
さらに、調理済みの食品に頼るだけでなく、手作りのソフト食を取り入れ始めていて、現在も努力されていることが伝わってきました。



事例3「ミキサー寒天食」
      発表者:特別養護老人ホーム 松寿園
      管理栄養士 伊藤光子氏


施設全体で、誤嚥による事故を防ぎたいという観点から、取り組みが始まったということでした。
それらには、@介護技術の向上(介護技術の研修)・A入所者の嚥下能力向上の取り組み(嚥下体操) ・B食事介助方法の見直し・C入所者に合った食事を提供するという4項目があり、 その取り組みの1つとしてミキサー寒天食が導入されていました。
ソフト食がいろいろある中で、寒天食を導入したのは、味がおいしい・扱いやすい・安価という利点からだそうです。
寒天食を取り入れていく中で、試行錯誤を重ね、水分やエンシュアも寒天食にして使用し、 現在ではお正月料理も寒天食で提供されるまでになっていました。
結果として、誤嚥事故の減少・脱水予防の効果・食事に対する意識の向上・多職種協働作業ができるという効果が現れていました。




やわらか食及び凍結含浸法の紹介

@三島食品株式会社

キザミ食ではなく、見た目がそのまま、でもやわらかく食べやすい商品をという声に応え、 「りらく」という商品が開発されました。
ごぼうや切干大根などの煮物や漬物が歯茎でつぶせるやわらかさに加工されている製品です。
さらに、筍については、凍結含浸法を用いて作られており、それらがすでに市販されています。
いろいろ工夫した調理を行なっていてもどうしても思い通りにならない・もっと軟らかくしたい等、思うなかで、 こういった商品も食事に取り入れていきたいと感じました。



A有限会社クリスターコーポレーション

見た目が「おいしさ」に重要な役割を果たす高齢者用の食事を、 形はそのままで、咀嚼・嚥下困難者でも食べられるように広島県の特許技術を利用し、開発されていました。
その技術が“凍結含浸法”です。
それは、VgTORON(凍結含浸法専用調味料・酵素)と真空包装機を利用することで、 見た目はそのままで食材を「歯茎でも簡単につぶせる」驚きの柔らかさが実現できるものでした。
真空調理システム導入済みの厨房であれば、VgTORONを購入するだけで、低コストで凍結含浸法の調理技術が導入できるとのことです。
見た目が変われば、食欲増進(喫食量の増加)につながるはずであるので、とても画期的な内容でした。



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